『ストーリーとしての競争戦略』―優れた戦略は、思わず人に話したくなる
はじめに
初めまして、YU玄(ユウゲン)です。(私のプロフィールはこちら)
「経営戦略とは、結局何なのか?」
経営戦略について学んでいると、「競争優位」「ポジショニング」「ケイパビリティ」「コア・コンピタンス」など、さまざまな言葉が登場します。
それぞれの概念を理解していくと、経営戦略について少しずつ分かってきたような気がします。
しかし、改めて考えてみると、「優れた戦略とは、そもそもどのようなものなのか?」と聞かれると、意外と答えるのは難しいのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは、楠木健氏の『ストーリーとしての競争戦略―優れた戦略の条件―』です。
本書のメッセージを一言で表すなら、
「優れた戦略は、思わず人に話したくなるような面白いストーリーである」
ということだと思います。
戦略を「施策の一覧」や「分析結果」として捉えるのではなく、流れと動きを持った「ストーリー」として捉える。
本書では、この視点から競争戦略と競争優位の本質について、豊富な企業事例を交えながら、じっくりと考察されています。
特に印象に残ったのは、「戦略の本質は、違いをつくって、つなげること」という考え方です。
「経営戦略について、もう一段深く考えてみたい」
そんな方におすすめしたい一冊です。
※本ページはプロモーションが含まれています。
本書の内容
本書の主題は、競争戦略を「ストーリー」として捉えることです。
経営戦略には、自然科学のような普遍的な法則があるわけではありません。
それでも、優れた戦略には「なぜ、この選択をするのか」「その結果、何が起こるのか」「それが次の選択とどうつながるのか」という論理があります。
本書では、こうした戦略の因果関係を一つのストーリーとして捉えることにこだわります。
そのうえで、「違いをつくって、つなげる」という戦略の本質や、SP(ポジショニング)とOC(組織能力)の関係、コンセプトやクリティカル・コアなどについて詳しく解説されています。
戦略の本質は「違いをつくって、つなげる」
本書で特に印象に残ったのが、「戦略の本質は、違いをつくって、つなげること」という考え方です。
企業が競争の中で利益を生み出すためには、競合他社との「違い」が必要になります。
もし、どの企業も同じ商品を、同じ価格で、同じ方法で提供していたら、企業間の違いはなくなってしまいます。
つまり、他社との違いをつくることは、競争戦略の出発点になります。
しかし、単に「他社と違うこと」をすればよいわけではありません。
重要なのは、個々の違いがつながり、組み合わさり、相互に作用することです。
たとえば、
Aという選択をする
↓
その結果、Bが可能になる
↓
BによってCの効果が高まる
↓
CによってAの選択がさらに強くなる
というように、複数の選択が因果関係によってつながっていく。
この「つながり」こそが、戦略を単なる施策の集合から、一つのストーリーへと変えていきます。
つまり、「何をやっている会社なのか」だけではなく、「なぜ、それらをやっているのか」まで考えることが重要なのです。
戦略は「法則」ではなく「論理」で考える
本書を読んでいて興味深かったのが、戦略における「論理」の扱いです。
経営や戦略には、自然科学のような普遍的な法則はありません。
「この条件がそろえば、必ず成功する」という法則を導き出すことは難しい。
なぜなら、戦略は競合企業、顧客、組織、技術、時代など、さまざまな要素が絡み合う文脈依存的なものだからです。
しかし、だからといって「戦略には何の論理もない」というわけではありません。
「なぜ、この選択をするのか?」
「この選択によって、次に何が起こるのか?」
「それが、なぜ競争優位につながるのか?」
こうした因果関係をつなぎ、戦略を論理化することは可能です。
ここは、経営戦略を学ぶうえで非常に重要な視点だと感じました。
戦略は「正解を覚えるもの」ではない。
未来は不確実だけれども、「われわれは、この道筋で進んでいこう」という意思を持ち、その道筋を論理的に説明する。
それが戦略ストーリーなのだと思います。
SPとOC――「違ったこと」と「違ったもの」
本書では、競争優位を考えるうえで、SP(Strategic Positioning)とOC(Organizational Capability)という2つの視点が示されています。
SPは、「他社と違ったことをする」という考え方です。
どの顧客をターゲットにするのか。
どのような価値を提供するのか。
何をやらないのか。
こうした選択には、必然的にトレードオフが生まれます。
一方のOCは、「他社と違ったものを持つ」という考え方です。
他社が簡単には真似できない組織能力を持つことで、競争優位を築きます。
そして、そのような能力の源泉になるのが、組織に定着した「ルーティン」です。
つまり、他社が簡単に真似できない経営資源とは、単純な設備や商品ではなく、長い時間をかけて組織に染み込んだ、「物事のやり方」そのものなのです。
このSPとOCの関係を、品質とコストの2次元空間で考えると、SPが「ベクトルの向き」を、OCが「ベクトルの大きさ」を意味するという説明も印象的でした。
「何をするのか」という選択だけではなく、「それをどれだけ上手くできるのか」まで考える必要がある。
すべてはコンセプトから始まる
戦略ストーリーを考えるうえで、起点となるのがコンセプトです。
本書では、本質的な顧客価値を突き詰めるために、
「誰が、なぜ喜ぶのか?」
という問いが重要になります。
単純に「顧客満足度を高める」と考えるのではありません。
「誰が、どんな状況で、なぜこの商品やサービスを必要とするのか」まで、リアルにイメージする。
そうすることで、そこから商品、サービス、組織、販売方法など、さまざまな構成要素がつながっていきます。
だからこそ、「すべてはコンセプトから」なのです。
戦略を考えるとき、いきなり「何をするか」を考えるのではなく、まず、
「誰に、どんな価値を提供するのか?」
を明確にする。
そのうえで、その価値を実現するために必要な選択を積み重ねていく。
この順番が重要なのだと思います。
「一見して非合理」なクリティカル・コア
本書の中でも特に面白かったのが、「クリティカル・コア」という考え方です。
クリティカル・コアには、大きく2つの条件があります。
①他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている
②一見して非合理に見える
つまり、普通に考えれば、
「なぜ、そんなことをするの?」
と思うような選択が、戦略全体を見ると重要な意味を持っている。
そして、その選択が他のさまざまな要素とつながっているからこそ、競合企業は一部分だけを真似しても、同じ結果を出すことができません。
これは、戦略を「点」ではなく「線」や「面」で見ることの重要性を示しているように感じます。
戦略の強さは、個々の施策ではなく、施策同士のつながりに宿る。
本書を読むことで、このことを強く意識するようになりました。
戦略ストーリーの「5C」
本書では、戦略ストーリーを構成する重要な要素として「5C」が示されています。
①競争優位(Competitive Advantage)
②コンセプト(Concept)
③構成要素(Components)
④クリティカル・コア(Critical Core)
⑤一貫性(Consistency)
これらをバラバラに考えるのではなく、一つのストーリーとしてつなげることが重要です。
特に重要なのが「一貫性」です。
「この会社は、なぜこのことをしているのか?」
という問いに対して、一つひとつの選択がつながって説明できる。
「だから、この選択をする」
「だから、次にこのことが可能になる」
「だから、最終的に競争優位につながる」
この「だから」が連続している状態こそ、戦略ストーリーなのだと思います。
「思わず人に話したくなる」戦略
本書のタイトルにもなっている「ストーリー」という言葉には、大きな意味があります。
優れた戦略には、
「なるほど。だから、この会社はこれをやっているのか」
と思わせる納得感があります。
そして、その納得感があるからこそ、思わず誰かに話したくなる。
単なる数字や分析結果ではなく、
「この会社は、こういう考え方で、この道を選んだ。その結果、こういう強みが生まれている」
という一つの物語になっている。
だからこそ、優れた戦略は人の記憶に残ります。
また、戦略ストーリーは経営者だけのものではありません。
戦略の因果関係が明確になれば、従業員も「なぜ、この仕事をするのか」を理解しやすくなります。
つまり、戦略ストーリーは、組織を動かすための共通言語にもなるのです。
戦略ストーリーの骨法10か条
本書では、戦略ストーリーを構想するための「骨法10か条」も紹介されています。
①エンディングから考える
②「普通の人々」の本性を直視する
③悲観主義で論理を詰める
④物事が起こる順序にこだわる
⑤過去から未来を構想する
⑥失敗を避けようとしない
⑦「賢者の盲点」を衝く
⑧競合他社に対してオープンに構える
⑨抽象化で本質をつかむ
⑩思わず人に話したくなる話をする
この中でも特に印象的だったのが、「エンディングから考える」という考え方です。
最終的にどのような競争優位を実現したいのか。
そこから逆算して、「そのためには何が必要なのか?」を考えていく。
これは、戦略を考えるときだけでなく、個人のキャリアや学習について考えるときにも応用できそうです。
「何を勉強するか」から考えるのではなく、
「最終的に何を実現したいのか?」
から逆算する。
そうすると、今やるべきことと、やらなくていいことが見えてきます。
一番大切なのは「切実さ」
本書を読み終えて、最後に強く残ったのが「切実さ」という言葉でした。
どれだけ論理的で、一貫性のある戦略を作ったとしても、そこに「なぜ、これをやるのか」という切実な理由がなければ、人は動きません。
そして、その切実さとは、「自分以外の誰かのためになる」ということなのだと思います。
「売上を増やしたい」
「利益を上げたい」
というだけでは、戦略を動かす力としては弱い。
「この顧客が抱えている問題を解決したい」
「この人たちに、こういう価値を届けたい」
という思いがあるからこそ、戦略に意味が生まれます。
これは、コンセプトを考えるときの、
「誰が、なぜ喜ぶのか?」
という問いともつながっています。
戦略とは、単に企業が利益を得るための設計図ではなく、誰かに価値を届けるためのストーリーでもある。
その視点が、本書を単なる経営戦略論とは違うものにしているように感じました。
おすすめする理由
①「戦略とは何か?」を深く考えられる
経営戦略について学んでいると、さまざまなフレームワークや理論に出会います。
ポーターの競争戦略、ポジショニング、RBV、コア・コンピタンスなど、戦略を考えるための道具はたくさんあります。
しかし、個々の理論を知っているだけでは、「結局、戦略とは何なのか?」という問いへの答えは見えてきません。
本書は、戦略を「ストーリー」という視点から捉え直すことで、これまで学んできた個別の戦略論をつなげて考えるきっかけを与えてくれます。
「何をするか」ではなく、
「なぜ、それをするのか?」
そして、
「それが次の選択とどうつながるのか?」
まで考える。
経営戦略を学んでいる人ほど、新しい視点を得られる一冊だと思います。
②「施策」と「戦略」の違いが分かる
「DXを進める」
「AIを導入する」
「新商品を発売する」
「広告を増やす」
「コストを削減する」
これらは、いずれも企業の重要な取り組みです。
しかし、それだけでは「戦略」とはいえません。
重要なのは、「なぜ、その施策が必要なのか?」を説明できることです。
そして、その施策が別の施策とどうつながり、最終的に競争優位につながるのか。
そこまで説明できて初めて、一つの戦略ストーリーになります。
本書を読むことで、企業のニュースを見るときにも、単純に「何をしたのか」だけではなく、
「なぜ、この会社はこの選択をしたのか?」
と考える習慣が身につくと思います。
③企業を見る「解像度」が上がる
企業の決算やニュースを見ていると、さまざまな施策が目に入ります。
新しいサービスを始めた。
店舗を増やした。
海外に進出した。
AIを導入した。
新しい人材を採用した。
しかし、それぞれを単独のニュースとして見ているだけでは、その企業の戦略は見えてきません。
本書の視点を使えば、「これらの施策は、どのようにつながっているのか?」と考えることができます。
点だった情報が線になり、その企業がどこへ向かおうとしているのかが見えてくる。
これは、ビジネスパーソンにとって非常に重要な視点だと思います。
「企業を見る目を養いたい」という人にも、本書をおすすめしたい理由です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は『ストーリーとしての競争戦略』から、私が特に印象に残ったポイントを紹介しました。
本書を読んで改めて感じたのは、戦略とは「何をするか」を決めることではなく、「なぜ、その選択で勝てるのか」というストーリーをつくることだということです。
他社と違うことをする。
しかし、違うことをするだけでは足りない。
「違いをつくって、つなげる」。
個々の選択が因果関係によってつながり、全体として一つのストーリーになることで、競争優位が生まれていきます。
そして、そのストーリーにはコンセプトが必要です。
「誰が、なぜ喜ぶのか?」
この問いから始まり、そこから商品、サービス、組織、オペレーションなどの構成要素をつないでいく。
さらに、その中に一見すると非合理に見える「クリティカル・コア」が存在することで、他社から簡単には真似できない戦略になっていく。
未来は不確実です。
どれだけ分析しても、必ず成功する戦略をつくることはできません。
それでも、
「われわれは、この道筋で進んでいこう」
という意思を持つ。
その意思を、論理的な因果関係でつないでいく。
それが、戦略ストーリーなのだと思います。
そして最後に重要になるのが、「切実さ」です。
「自分以外の誰かのためになる」という切実な思いがあるからこそ、戦略は人を動かす力を持つ。
優れた戦略とは、単に「正しい戦略」ではない。
「なるほど。だから、この会社はこれをやっているのか」
と思わず納得し、さらに、
「この話、誰かに話したい」
と思えるようなストーリーなのかもしれません。
企業のニュースを見るときも、これからは単純に「何をしたのか」だけではなく、
「この会社は、どんなコンセプトを持っているのか?」
「それぞれの施策は、どのようにつながっているのか?」
「最終的に、どのような競争優位をつくろうとしているのか?」
という視点で考えてみたいと思います。
経営戦略について学びたい方はもちろん、企業を見る解像度を上げたいビジネスパーソンにもおすすめできる一冊です。
「戦略」という言葉を何となく使っているけれど、もう一度その本質を考えてみたい。
そんな方は、ぜひ手に取ってみてください。



