『はじめての経営戦略』書評―「どこで戦うか」から考える、経営戦略の基本
はじめに
初めまして、YU玄(ユウゲン)です。(私のプロフィールはこちら)
「経営戦略とは、結局何なのか?」
ビジネスに関する本やニュースを読んでいると、「戦略」という言葉を目にする機会は少なくありません。
「成長戦略」「DX戦略」「営業戦略」「マーケティング戦略」など、戦略という言葉は当たり前のように使われています。
しかし、改めて考えてみると、「戦略」と「計画」や「施策」は何が違うのか?と聞かれて、明確に説明するのは意外と難しいのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは、丹羽亮介氏の『はじめての経営戦略』です。
本書は、経営戦略の全体像と定石を、GAFAM、テスラ、Netflix、ユニクロ、トヨタ、富士フイルム、ワークマンなど、84件もの企業事例を通して解説した経営戦略の入門書です。
特に印象に残ったのは、経営を「アートだから正解はない」と片づけるのではなく、「確実な成功は保証できなくても、できる限りサイエンスに近づけていく」という姿勢です。
「経営戦略を体系的に学びたい」
そんな方におすすめしたい一冊です。
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本書の内容
本書は、経営戦略について「なぜ必要なのか」「どのような理論があるのか」「実際の企業ではどのように使われているのか」を、豊富な企業事例とともに解説しています。全体は、事業戦略・プラットフォーム戦略・全社戦略という3つの大きな視点から整理されています。
経営戦略とは何か?
まず考えるのが、「そもそも経営戦略とは何なのか?」という問いです。
本書では、経営を大きく「戦略的な要素」と「オペレーショナルな要素」の重層構造として捉えています。
日々の業務改善や営業活動など、継続的に改善していくオペレーショナルな活動がある一方で、一度決めると簡単には変えにくい、長期的な意思決定があります。
この後者が、経営戦略を考えるうえで重要になります。
たとえば「どの市場で戦うのか」「どの事業に投資するのか」といった判断は、一度決めたからといって簡単に変更できるものではありません。
だからこそ、目の前の施策だけを見るのではなく、長期的な視点から「どこに経営資源を配分するのか」を考える必要があります。
市場選択――まず「どこで戦うか」を決める
本書で特に印象に残ったのが、外部環境である「市場」と、内部にある「経営資源」のどちらを先に考えるのかという論点です。
もちろん、どちらも重要です。
しかし本書では、論理的に先行するのは「市場の選択」だと考えます。
どれだけ優れた経営資源を持っていても、その強みが評価されない市場で戦っていては、十分な成果につながりません。
だからこそ、まず、
「誰に、何を提供するのか?」
「自社にとって市場とは何なのか?」
「その市場は成長するのか?」
といった問いを考える必要があります。
本書では、QBハウスや富士フイルム、大塚家具、JTBなど、さまざまな企業の事例を通して、「市場をどう捉えるか」という視点を深掘りしています。
ここから得られる重要な示唆は、「良い戦略は、良い施策から始まるのではなく、良い市場選択から始まる」ということです。
経営資源――勝てる市場で「強み」を構築する
市場を選んだら、次に必要になるのが「何を武器にして戦うのか」という問題です。
ここでは、経営資源を重視する「リソース・ベースド・ビュー(RBV)」の考え方が登場します。
人材、技術、ブランド、ノウハウ、顧客基盤、組織能力など、企業が持つさまざまな経営資源をどのように競争優位につなげていくのか。
たとえば、ユニクロのSPAモデルのように、単なる商品そのものではなく、企画・生産・販売までを含めた仕組みそのものを強みにすることもできます。
重要なのは、単に「何を持っているか」ではありません。
「その経営資源を、どの市場で、どのように活かすのか」まで考えることが必要です。
成長戦略――どの方向に進むのか
企業が成長するとき、その方向性にはいくつかのパターンがあります。
本書を読みながら、私は企業の成長を、
①地理的な拡大
②垂直統合
③多角化
という3つの方向から考えると整理しやすいと感じました。
ただし、「成長すること」自体が戦略なのではありません。
重要なのは、「なぜ、その方向に成長するのか?」を考えることです。
市場が成熟していくなかで、既存市場を深掘りするのか、新しい地域へ進出するのか、川上・川下へ事業を広げるのか、それともまったく異なる事業へ進出するのか。
選択肢が増えるほど、経営戦略の重要性も高まります。
SWOT分析は「戦う市場」とセットで考える
経営戦略を学ぶと、SWOT分析を使う機会も多くあります。
Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)を整理するフレームワークです。
しかし、SWOT分析だけを行っても、それだけで戦略が生まれるわけではありません。
たとえば、「自社には技術力という強みがある」と分かったとしても、その強みをどの市場で活かすのかが決まっていなければ、具体的な戦略にはつながりません。
つまり、
「自社には何があるのか?」
だけではなく、
「どのような市場で戦うのか?」
という問いとセットで考える必要があります。
フレームワークを埋めること自体が目的になってしまうと、本来の戦略から離れてしまいます。
プラットフォーム――社外の経営資源を活用する
本書の中でも、個人的に興味深かったのが「デジタル・プラットフォーム」です。
従来型の企業では、自社で人材や設備、技術などの経営資源を蓄積し、それを使って価値を生み出すという考え方が基本でした。
しかしプラットフォーム企業は、ユーザーやサプライヤーなど、社外の経営資源を活用することで、価値創造の規模を大きく広げることができます。
たとえば、利用者が増えることでサービスの価値が高まり、さらに新しい利用者を呼び込む。
このようなネットワーク効果が働けば、自社だけで資源を抱える従来型のビジネスとは異なる成長が可能になります。
本書が示す「価値創造の方程式が変わった」という視点は、デジタル時代の経営を考えるうえで非常に重要だと感じました。
プラットフォームには「公平性」が必要
一方で、プラットフォーム型ビジネスには大きな注意点もあります。
それが、ユーザーやサプライヤーに対する公平性です。
プラットフォームは、多くの参加者をつなぐことで価値を生み出します。
だからこそ、プラットフォームを運営する企業が、自分たちだけに有利なルールを設定してしまえば、参加者が離れてしまう可能性があります。
「参加者が増えれば増えるほど価値が高まる」という仕組みを維持するには、単純に規模を拡大するだけでは足りません。
「参加する人たちにとって、そこに居続けるメリットがあるのか?」
という視点が欠かせないのです。
これはプラットフォーム企業だけではなく、企業と従業員、企業と取引先など、さまざまな関係にも通じる考え方ではないでしょうか。
おすすめする理由
①経営戦略の「全体像」を理解できる
経営戦略の本を読んでいると、ポジショニング、RBV、PLC、SWOT、ポートフォリオ、シナジーなど、さまざまな理論やフレームワークが登場します。
しかし、個々の理論を知っているだけでは、「結局、経営戦略とは何なのか」が見えにくいことがあります。
本書は、市場選択→経営資源→プラットフォーム→全社戦略という流れで整理されているため、個別の知識が一本の線につながっていきます。
経営戦略をこれから学びたい人にとって、まさに「戦略の地図」になる一冊です。
②豊富な企業事例から「戦略」を具体的に考えられる
本書には、GAFAM、テスラ、Netflix、ナイキ、ユニクロ、楽天、トヨタ、富士フイルム、ラクスル、ワークマンなど、幅広い企業の事例が収録されています。
経営戦略は抽象的な概念になりがちですが、実際の企業が「どの市場を選び、どのような強みを構築したのか」を見ることで、一気に理解しやすくなります。
「あの会社は、なぜこの事業を選んだのか?」
そんな視点で企業を見る習慣を身につけられるのも、本書の魅力だと思います。
③「経営はサイエンスに近づけられる」という視点を得られる
経営には不確実性がつきまといます。
どれだけ分析しても、必ず成功する戦略を作ることはできません。
だからといって、「経営はアートだから、最後は経営者の勘」と片づけてしまうのも違うように思います。
確実な成功を保証することはできなくても、
「なぜその市場を選ぶのか?」
「なぜその経営資源が必要なのか?」
「なぜその成長方向を選ぶのか?」
を論理的に考えることはできます。
経営を少しでも「サイエンス」に近づける努力をする。
この姿勢こそ、経営戦略を学ぶ意味なのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は『はじめての経営戦略』から、私が特に印象に残ったポイントを紹介しました。
本書を読んで改めて感じたのは、戦略とは「何をするか」だけではなく、「どこで戦うか」を決めることだということです。
どれだけ優れた商品や技術を持っていても、その価値が評価されない市場で戦っていては、競争優位を築くことは難しい。
だからこそ、まず市場を見て、そのうえで自社の経営資源を考える。
そして、必要に応じて地理的な拡大、垂直統合、多角化などの成長方向を選択していく。
さらにデジタル時代には、自社の資源だけではなく、社外の資源を活用して価値を生み出すという発想も重要になります。
企業のニュースを見るときも、これからは単純に「売上が伸びた」「新商品を発売した」と見るのではなく、
「この会社は、どの市場で戦おうとしているのか?」
「その市場で勝つために、どんな強みを作ろうとしているのか?」
と考えてみたいと思います。
経営戦略を学びたい方はもちろん、企業を見る解像度を上げたいビジネスパーソンにもおすすめできる一冊です。
「戦略」という言葉を何となく使っているけれど、もう一度きちんと体系的に学び直したい。
そんな方は、ぜひ手に取ってみてください。


